麻生 太郎首相は10日、首相官邸で記者会見し、日本の2020年時点の温暖化ガスの中期目標を海外から購入する排出枠などを除いて05年比15%削減(1990年比8%減)にすると表明した。同時に目標実現に必要な政策や家計負担も提示。太陽光発電を現状の20倍導入するほか、1世帯あたり年間約7万円超の負担増が必要だと試算した。首相は05年比で欧州連合(EU)や米国を上回る目標値を打ち出すことで今後の国際交渉の主導権を握りたい考えだが、交渉では逆に目標値の上積みを求められる可能性もある。

温暖化対策は膨大な財政赤字や少子高齢化による社会保障負担増などと並び、日本の政府、企業、家計の各部門で今後数十年の経済活動を制約する。首相が表明した中期目標は今後の国際的な枠組み(ポスト京都議定書)交渉で日本の基本的な立場となる。イタリア中部で開く7月の主要国首脳会議(ラクイラ・サミットや12月にコペンハーゲンで開く国連気候変動枠組み条約国会議(COP15)を経て、数字が正式に決まる。
日本が海外の温暖化ガス削減に協力する見返りに取得する排出削減目標枠や間伐など森林管理を徹底して温暖化ガスの吸収を増やす分については今回の中期目標の数字に含まなかった。まずは国内の削減努力による「真水」で15%削減を目指す。
首相は今回の中期目標について「極めて野心的なもの」と強調。より厳しい削減目標を設定する可能性については「国民の負担が重たくなる」と否定した。
中期目標は90年比ではなく、05年比で設定した。日本は90年から05年にかけて温暖化ガスの排出量が増えたので、仮に90年比で今回の目標を換算すると8%減にとどまり、EUの同20%減に比べて見劣りする。05年比にすればEUの13%減、米国の14%減に比べ先進国で一歩抜け出した印象を与えられるためだ。
記者会見では昨年、福田康夫前首相が表明した長期目標「50年までに60〜80%減」の実現に向けた試算も提示。今回の中期目標を達成すれば30年には05年比約25%減、50年には同約70%減が達成できると算出した。
首相は目標達成に向けたコストについて「国民の皆さんに相応のご負担をお願いせざるを得ない」と指摘。一世帯あたりの年間の家計の負担増が、経済成長の鈍化による所得の減少分4万円と電気代など光熱費の増加分3万円を合わせて約7万円超になるとの試算を示した。太陽光発電の導入量を現状の20倍にするほか、新車のうち50%をハイブリット車などの次世代車にする必要があるとのデータも提示した。
今後の国際交渉に関して首相は「主要排出国の中国、米国などが参加するものにしなければいけない」と指摘。「今回の目標は日本の立場を強める。リーダーシップがとれる」と自信を見せた。
途上国や新興国の一部は先進国に対し、90年度比で40%以上の削減を求めている。国内でも民主党が05年度換算で30%減(90年度比25%減)を掲げた地球温暖化対策基本法案を参院に提出済み。
衆院選挙後に民主党が政権につけば、削減目標は上積みされる可能性もある。
「05年比15%削減」に
必要な主な対策と負担 |
| ▽対策・製作 |
| 太陽光発電 |
現状の20倍に |
| エコカー |
新車販売の50% |
| 保有台数の20% |
| 省エネ住宅 |
新築住宅の80% |
| ▽家計の負担増(世帯あたり年間) |
| 成長鈍化による所得の減少 |
43.000円 |
| 電気代などの負担増 |
33.000円 |
| 合計(年間) |
76.000円 |
|
家計の負担、年7万円超
麻生太郎首相が二酸化炭素(CO2)など温暖化ガス排出削減の中期目標を発表した。05年比で15%減らすという目標は、地球温暖化に強く危機感を抱く国や人から見れば低すぎ、国民の負担を心配する立場からは高いと言う見方もある。中庸といえば聞こえが、産業界の声に配慮して政治的にはここしかなかった落しどころに落としたという決定だろう。しかしその意味は重い。
15%減は省エネなどによる国内での実質的な排出削減量、「真水」の数値だ。欧米の中期目標が途上国からの排出削減量買い取りなどを含めて膨らませた数値とされるのとは違う。排出量取引も導入せず「国内でここまでは確実に実行する」というメッセージだ。 |
達成に覚悟必要この目標はポスト京都議定書の国際交渉に向け日本の主張のスタートラインを示したにとどまらない。
化石燃料をできるだけ使わない低炭素社会づくりへ踏み出す変革の一理塚。後に引けない一線といえる。
達成にはそれなりの覚悟がいる。政府の試算では新車販売の半数をハイブリッド車や電気自動車などエコカーにする必要がある。太陽光発電の導入量も20倍を目指す。
5月の国内の新車販売でハイブリット車のシェアが12%に達したのは心強いが、話題の電気自動車の初年度販売計画は2.000台。まだ入り口だ。太陽光など再生可能エネルギーの拡大はこれから電気代の上昇要因にもなる。
家庭やオフィスのCO2削減には省エネ型家電の普及では限りがある。おおもとの電源の脱化石燃料化が避けられない。原子力発電は重要な柱であり安全を確保しつつ稼働率を大きく引き上げる必要がある。
政府は5月、石炭火力発電所の新設に温暖化防止の観点からから初めて待ったをかけた。エネルギー政策はようやく脱化石燃料にかじを切り始めた。
温暖化対策はエネルギー政策と表裏一体だ。オバマ米大統領は脱化石燃料が輸入原油への依存を減らし安全保障上の意義が大きいことを機会あるごとに強調する。米欧では温暖化対策とエネルギー安全保障が同じ文脈で議論されることが珍しくない。日本はエネルギー資源の輸入依存度が米欧より高い。安全保障の観点から温暖化対策の意義についてもっと議論を深める必要もある。
中印の参加がカギ15%削減はいま実行可能なことを総動員すれば実現可能な目標だ。省エネ技術の優位も油断すれば追いつかれる。「低炭素革命で世界をリードする」には既成概念を超えた発想も必要だ。
例えば日本郵船は燃料電池で走る大型コンテナ船の構想を発表した。既存のガントリーグレーンでは届かないほど船体の幅が広く現時点では実現性が薄い船だ。しかし、CO2排出ゼロに近づけるなら荷役設備など社会インフラを含めた変革を目指すしかないと未来図を示した。リスクをとり大胆な挑戦をした者が報われなければ「革命」はできない。
ポスト京都の枠組みには中国、インドの参加が不可欠なのは言うまでもない。政府や産業界は省エネ技術協力を中印参加の呼び水にする作戦だ。主要排出国の「全員参加」を原則に掲げた政府の交渉力が問われる。
(編集委員 滝順一)
政府は2020年時点で温暖化ガス中期目標を「05年比15%削減」とすると発表した。国内の温暖化ガス排出量は京都議定書の採択後も増え続けているのが実情。「低炭素社会」の実現には省エネ余地が大きい家庭部門の対策が欠かせず、企業も国際競争力確保に向けた技術開発が待ったなし。国民の生活や経済活動に広く影響が及びそうだ。

太陽光発電の導入量20倍、高効率給湯器40倍、新車の2台に1台はエコカーに―。中期目標の達成のために政府はこんなシナリオを描く。限られた期間で排出量を減らすには、日本の環境技術を最大限に生かし大胆に普及させる必要がある。
大幅な削減を迫られるのが家庭部門だ。いち早く省エネ対策に取り組んできた工場など産業界の削減余地が小さくなっているのに対し、07年時点の家庭の温暖化ガス排出量は1990年比で4割増えた。
その分「削りしろ」が大きい。家計には負担が避けられない。

削減幅の拡大でエネルギーを大量に消費する企業の活動が成約され、雇用が減る可能性がある。
20年時点の国内総生産(GDP)が約0.6%押し下げられ失業率は0.2%程度上昇、可処分所得が1世帯当たりで4万3.000円目減りすると予想する。
家庭で発電した電力の買い取り制度が始まれば、買い取り費用の増加分が電力料金に上乗せされる。光熱費は同3万3.000円増えそうだ。合計で家計を年7万6.000円圧迫する計算。
20年時点では負担分を差し引いても可処分所得が80万円程度増えるとの想定の為単純な所得減にはならない。ただ政府の世論調査では6割が「温暖化対策のために許容できる負担は月額1.000円未満」と回答しており、国民の心構えができているとは家庭部門の排出を減らすには経済的なインセンティブが欠かせない。
エコカー減税ではハイブリット車の場合、通常は150.000円程度かかる取得税・重量税が免除され、新車登録から乗り換える場合は250.000円の補助金を受け取れる。省エネ家電の「エコポイント」制度では購入促進効果がすでに出ている。家庭の排出削減効果を最大限に引き出すため、政府は対策の負担と恩恵を丁寧に国民に説明する必要がありそうだ。

中期目標は12月にデンマーク・コペンハーゲンで開く第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)で決まる。年末に向け、国際的な駆け引きが続く。
欧州連合(EU)は「1990年比20%減」(2005年比で13%減)を主張する。各国に割り当てられた排出枠の主導権を握っており、こうした取引も積極活用する考え。
大幅削減をアピールして途上国の支持を獲得。早期合意を得て排出枠ビジネス拡大も狙う。米国の「05年比14%減」も排出量取引を含んでいるとされる。
一方、日本の「05年比15%減」は排出枠購入や森林が吸収したと見なす分を含んでいない。日本政府当局者は「見た目でも、実際の削減の中身でも欧米を一歩上回った」と胸を張る。
しかし中国は「90年比40%以上の削減」を要求。来日中のドイツのマッハニック環境次官は10日、日本経済新聞の取材に「国際交渉の場で理解を得るのは難しい」と厳しい見方を示した。
日本も排出枠購入分を加えれば、今後の交渉次第で削減目標を上積みする余地はある。排出枠の購入を通じて途上国を支援することで、ポスト京都に参加させ排出削減を促す交渉材料になる。ただ、排出枠購入には多額の費用が必要で、財政出動も迫られる。
基準年も焦点。EUは京都議定書と同じ90年を訴える。EUは中東欧を取り込んで効率を改善したことで90年以降、排出量は減り続けている。日本は90年より排出量が増えたため「90年比ではEUに比べ日本の削減目標が小さくなる」と判断。同じく05年を基準とする米国と共闘して基準年変更を求める構え。しかし途上国から「見かけをよくする数字合わせ」と批判する声が出ている。

▼・・・2020年を目安とする温暖化ガスの排出削減目標。
京都議定書で課された国際公約である「08〜12年に1990年比6%削減」に続く目標となる。13年以降の地球温暖化対策の国際的枠組み(ポスト京都議定書)づくりの最大の焦点で、最終的な数値は年末に開かれる国連気候変動枠組み条約締約会議で決まる見込み。
▼・・・欧州連合(EU)は20年までに90年比20%減の目標を掲げている。米国はオバマ大統領が05年比14%減の目標を表明しているほか、議会では「05年比法案を審議している。