福田康夫首相は九日、東京・内幸町の日本記者クラブで記者会見し、日本が取り組む地球温暖化対策(福田ビジョン)を発表した。2050年までに温暖化ガスを現状比で60〜80%削減すると表明。
温暖化ガス削減を「将来の世代」への課題とし、今後の議論を主導することに強い意欲を示した。

福田ビジョンは「『低炭素社会・日本』をめざして」と題し発表した。「『将来の世代』のための『低炭素社会』へと大きくかじを切らねばならない」と主張。「これを単に我々に課された負担とだけとらえたのでは問題の解決にならない」とも述べ低炭素社会への移行を経済成長への新たな機会ととらえ「第一歩を踏み出すべき時」と呼びかけた。
「低炭素革命に真剣に取り組んでこそ、国際社会における日本の存在感を高めることができる」とも強調。7月の主要国首脳会議(洞爺湖サミット)などの場で指導力を発揮する構えを見せた。
国内産業界に慎重論が残る排出量取引は焦点の一つだったが、「効果的なルールを提案するくらいの積極的な姿勢に転じるべきだ」と言明。秋の試行取引にできるだけ多くの業種と企業の参加を呼びかける考えを示した。そのうえで「本格導入に必要な条件、制度設計上の課題などを明らかにしたい」と語った。
「福田ビジョン」骨子
☆50年までの長期目標として温暖化ガス排出量を現状比60〜80%削減
☆20年までに現状比14%削減は可能。来年に中期目標を発表
☆今秋に国内で排出量取引を試験的に実施
☆日米英で創設する地球温暖化対策の多国間基金に最大12億ドルを拠出
☆環境税を含め、低炭素化促進の観点から税制全般を横断的に見直し
☆与党が検討中のサマータイム制度導入について早期の結論を期待
☆太陽光発電の導入量を30年に現状比40倍に引き上げ
☆12年をめどにすべての白熱電球を省エネ電球に切り替え
首相は50年までに世界全体の排出量を半減する目標にも触れ「主要国および主要排出国との間で、この目標を共有することを目指したい」と宣言。60〜80%削減するという日本の長期目標では、05年を削減の基準年とすることを念頭においている。首相は「先に発展した国としてより厳しい責任を受け持つ」と力説した。20〜30年までの中期目標を巡っては20年までに欧州連合(EU)と同程度の14%削減が可能とした経済産業省の試算を紹介。「各国共通の方法論を確立し、来年のしかるべき時期に発表したい」と語った。
京都議定書が温暖化ガス削減の起点に定めた1990年を基準年とせず、中期目標の策定でも05年を基準年にする考え方を主張。日本が提案した排出量を産業・分野別に積み上げる方式「セクター別アプローチ」への各国の理解を促したい意向を示した。
税制改革では「自動車や家電製品、住宅建築にも、排出抑制のインセンティブとして税制を活用することが考えられないか」と指摘。税制全般を見直し「グリーン化」を進める考えを示した。
途上国の温暖化対策を支援するため、日英米が創設する多国間基金に最大12億ドルを拠出する方針も表明。技術革新を加速する独自構想を洞爺湖サミットで提案する考えも明らかにした。
太陽光発電の導入量を20年までに10倍、30年に40倍に引き上げると提唱。12年をめどにすべての白熱電球を省エネ電球に切り変える方針なども示した。

福田康夫首相は9日発表した「福田ビジョン」を、7月の主要国首脳会議(洞爺湖サミット)で指導力を発揮する布石と位置づけている。日本が温暖化ガス削減に取り組む姿勢を鮮明にし、主要排出国が「全員参加」できる枠組みづくりを目指す。
ただ削減に積極的な欧州連合(EU)と慎重派の米国、中国、インドなどの意見集約に大きな壁がある。
福田ビジョンは「国別総量目標」を提唱した1月のダボス会議での演説に比べ、具体論に踏み込んだ。2009年末に向け大詰めを迎えるポスト京都議定書の枠組みづくりで主導権を握り、日本の立場を少しでも有利にするのが狙いだ。「現段階で出せる数字は本当にないのか」。首相はビジョンに中期目標の数値を盛り込みたいと考え、渋る関係省庁に繰り返し要請を続けた。首相周辺は「どれだけお金をかけてもいいから限界でどれくらいできるか試算してみろ」と指示。その結果、「中期目標の考え方」として経済産業省がはじいた試算値を例示するに至った。産業界が強く反発する排出量取引で「秋の試験実施」を宣言できたのも、とりあえずの成果といえる。
ただ、洞爺湖サミット議長国の日本は単に自国の立場を有利にするだけでは済まされない。07年の独ハイリゲンダムサミットで主要国が「真剣に検討する」ことで合意した「50年までに世界全体の排出量を半減する」長期目標について、中印なども含めた主要排出国全体の合意に発展させる責務があるからだ。大量排出国として無視できなくなった中印は、洞爺湖サミットの拡大会合に参加するが削減目標の設定自体に慎重。「先進国に発展を押さえつける権利はない」との気分が強いとされる。
日本がEUを意識して削減策に踏み込みすぎれば、中印どころか米国を説得するのも容易でなくなる。
首相がいかに意欲的な削減プランを掲げても、利害の対立する各国を説得するには十分とはいえない。
「根拠を持って説得すれば理解してもらえる」。首相は記者会見で、日本が提唱する産業・分野別の積上げ方式「セクター別アプローチ」の効力に触れ「色々な国を説得するのに有力な手段だ」と主張した。6月初めの首相の欧州歴訪時には各国首脳がセクター別アプローチにあえて異論を唱える場面はなかったとはいえ、EUの実務レベルでは同手法を国別の目標設定に使うことには異論が多い。
中印などには理解を示す声もあるが、あくまで日本からの省エネ支援が前提との見方がある。