地球温暖化対策の“切り札”として、もてはやされている「排出量取引」だが、京都議定書の成立過程では“抜け道”として非政府組織(NGO)などに非難される場面もあった。「見えない商品」を売買するという、まか不思議な仕組みはどういった経緯で考え出されたのか。(温暖化問題取材班)
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河川などの環境を汚染する排水の量に金銭的価値を与え、一定基準を超えた企業などが、基準より排出を下回った企業から「排出する権利(排出権)」を購入して相殺する、という手法を最初に考えたのはカナダ・トロント大の経済学者ジョン・デールズ氏とされる。
汚染物質を排出するだけ、お金を払わなければならない。逆に削減すれば「排出枠」を売ることができる。
そのため、企業が汚染防止に努力するという、いわば“負”の市場原理だ。 |
1980年代初め、北米はモータリゼーションや工業化で、深刻な大気汚染被害に見舞われていた。
米環境保護局(EPA)は82年からこの理論に基づき、「排出量取引制度」を導入。大気汚染防止のため、国内の約450の発電所に二酸化硫黄の排出枠を設け、排出目標値を大きく下回る成果を挙げていた。
この制度は温暖化の主要原因とされる二酸化炭素(CO2)削減策として、97年の国連気候枠組み条約第3回締約国会議(COP3)の京都議定書採択時に盛り込まれた。
この会議で議長を務めた大木浩元環境相は「米国は『市場原理で削減に取り組むべきだ』と非常に熱心だった。特にクリントン政権化のゴア副大統領(当時)の取り組みが際立っていた」と振り返る。
2001年、石油業界が支持母体のブッシュ米政権は「温暖化が人類の活動が原因かは疑問」として議定書から離脱。米国の取り組みが停滞する中、当初、排出量取引に批判的だった欧州連合(EU)が一転して、05年から域内取引制度を開始した。主役は特に英国が演じている。
環境アナリストの江沢誠氏は「米国は最初から排出量を金融商品と見て年間取引23兆円の巨大市場を創出しようとしていた。英国も金融取引がビジネスの主体。EU域内で取引を活発化させ市場が国際化した際、巨額の利益を上げるのが目的だ」と分析する。
こうした流れに参入してきたのが、ロシアや東欧だ。ロシアは冷戦崩壊後の産業活動の停滞でCO2の排出量がマイナスになっている。このマイナス分を「余剰排出枠」(ホットエア)として売ることができる。
日本の削減目標はロシアの「枠」を買えば、計算上まかなえてしまうともされ、最初の日ロ会合が今月(2月)27日、都内で行われる。
議定書元年がスタートし、排出量取引をめぐる各国の動きは激しさを増すばかりだ。
環境NGO気候ネットワークの畑直之理事は「厳しい検証が可能な国内制度は理解できるが、国際取引では、先進国の国内対策がないがしろになる傾向が高く積極的に導入すべきでない」とけん制する。
日本経団連は「国内の排出量は企業の足かせになり賛同できない」と主張し続けてきたが、御手洗富士夫会長が今月(2月)20日「EUや米国など世界的な潮流を踏まえ考えていく必要がある」と容認をうかがわせる発言を行った。
排出量取引制度に対し国内世論が揺れる中、今月(2月)14日来日したデ・ブア事務局長はこう強調した。
「米大統領を狙う民主党のヒラリー、オバマ両氏、そして共和党のマケイン氏いずれもブッシュ大統領とは反対に排出量取引推進論者。来年、米国で誰が大統領になっても、世界のすべての先進国がこのシステムを模索することになる。日本が加わらなくとも、それは進む」
お 断 り
CO2の国際取引について、京都議定書では、購入した側が「排出してよい権利ではない」と定義しています。本紙では取引については「排出量取引」、ビジネス色が強くCO2が売買される場合、「排出権」としています。
| 1968年 |
排出枠売買の理論をカナダの経済学者デールズが提唱 |
| 82年 |
米環境保護局(EPA)が排出量取引プログラムを導入 |
| 88年 |
国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)設立 |
| 92年 |
気候変動枠組み条約採択 |
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地球サミット(リオデジャネイロ) |
| 95年 |
米環境保護局(EPA)が二酸化硫黄の排出量取引制度開始 |
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第1回 締約国会議(COP1) |
| 97年 |
COP3(京都)京都議定書採択、国際排出量取引制度盛り込む |
| 98年 |
米国で窒素酸化物の排出量取引開始 |
| 2001年 |
米ブッシュ大統領が議定書から離脱表明 |
| 02年 |
地球サミット(ヨハネスブルク) |
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英国が二酸化炭素の排出量取引開始 |
| 05年 |
京都議定書発効 |
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欧州連合(EU)が域内の二酸化炭素排出量取引開始 |
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米国7州が排出量取引制度創設 |
| 06年 |
環境省が自主参加型排出量取引を試行 |
| 08年 |
京都議定約束期間(〜12年)スタート |
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米国と欧州が排出量取引連携で会議、日本オブザーバー参加 |